Interview

カレンシーポートのできるまで(前編)-もうFinTechの“しくじり先生”とは言わせない

カレンシーポート株式会社 杉井靖典 × Longine FinTech取材班

今回はカレンシーポート株式会社 杉井靖典 代表取締役に、カレンシーポート創業に至るまでのエピソードや今後の事業展開についてお伺いしました(当インタビューは複数回公開となります)。

読者に伝えたい3つのポイント

物流システムの最適化に携わっていく中で、ECはITの総合格闘技だと気づきました。

物流は物流で重要だけれども、それよりも先にお金回りの方が重要だと考え始めました。

ISIDとの連携で大手企業との取引も無事進めることができ、カレンシーポートを設立することができました。

インターネットとの出会いとコンテンツ作り

Longine FinTech取材班(以下、Longine):カレンシーポートを創業されたきっかけについて教えてください。

カレンシーポート株式会社 杉井靖典 代表取締役/CEO(以下、杉井):正直なところ経緯というよりは、仕事をやらざるを得ないところで思い立ったことが、最終的にカレンシーポートに行き着いたといったところです。ですが、カレンシーポートに至るまでは相当長いですよ(笑)。

Longine:長くても構わないので是非お伺いさせてください。

杉井:最初はソニー系列のインターネットプロバイダーSo-netの立ち上げのメンバーでした。当時私はネットの中で割と有名人だったので、入社時点からプロデューサーとしてコンテンツ企画を担当しました。他のプロバイダーが単に接続サービスをやっていたその時代、情報サービスを国内で初めて立ち上げたのがSo-netです。当時は「コンテンツと言えばSo-net」と言われていましたね。

Longine:なぜそれほど有名人だったのでしょうか。

杉井:フォーラムで管理者をやっていたりした関係で、ハンドルネームが知られていたんです。入社初日から、みんなにそのハンドルネームで呼ばれたりして(笑)、それでコンテンツを担当してくれという話になりまして。

コンテンツ企画には大きく分けて、アグリゲーションしてくるタイプと、自社で作るタイプの2つがありますが、私はもっぱら自社で作るプロパーコンテンツを担当していました。そこでは社運を賭けるような大きなコンテンツも、いくつもやらせていただいたのですけど、だいたい失敗しましたね。なかなか、あのピンクの熊を抜くことができませんでした(笑)。それでもコンテンツ作りは面白かったので、その後もコンテンツ企画を担当しながら幾つかの会社で働きました。

Longine:コンテンツの企画を長らく担当された後は、どうなったのでしょうか。

初めての起業と挫折

杉井:初めて起業したのが2004年で、そこから起業を繰り返しています。最初に扱ったのはECサイトですが、自分でECをやったのではなくて、売りたい人がオンラインで販売できるサイト、つまり、ECプラットフォームを作りました。

まず、作家さんやクリエイターの方が、手作りした物を持ってくると販売することができる雑貨の実店舗を駒沢の駅前に作りました。そして、実販売とオンラインでの同時委託販売という形で、いわゆる場所貸しとECの組み合わせを始めました。ただ、それはなかなかうまくいきませんでした。値付けは作家さんの自由に任せていたのですが、やはり初めは自信がないというので、値付けがフリーマーケットみたいになっちゃうんですよね。ですから売れても到底、実店舗の家賃が払える額になりませんでした(苦笑)

Longine:その次は何をしようと思ったのでしょうか。

杉井:その次にやろうと思ったのが、「私のお店の友達」という、自分のお店が開けてそこにファンが付いていくという、今で言うと、Facebookを商用向けにしたようなサービスを考えました。ですが、資金が足りなくなって続けられず、一度会社員に戻る決断をせざるを得ませんでした。ただ、その時点で既にキャリアに傷がついている状態でしょう。だから、なかなか就職できなくて、派遣登録してエンジニアの仕事などをやっていました。

Longine:その当時はどのような仕事をされていたのでしょうか。

杉井:とあるモバイルコンテンツ企業のSEとして占いを担当していたのですが、派遣の身分だと自分がやりたいことできませんでした。そこで、正社員への道を探り、占い専門の別企業に入りまして、そこでECの担当を任されました。その会社のECサイトはとにかく面白かったですよ。

Longine:素朴な疑問ですが、占いとECとは関係があるのでしょうか。

杉井:この会社の占いコンテンツは、100個以上無料で試せるものがあったのですが、生年月日をはじめとして個人に関する幅広いデータベースを抱えることになるんですね、占いって実は今でいうビッグデータの走りかもしれません。占いコンテンツをたくさん無料で提供すると、それを楽しむ人のデータがどんどん精錬されていって、やがては「私は貴方以上に貴方のことを知ってますよ」というくらいになるんです。

占いなので嘘のデータもほとんどありません。そういうデータが数百万人分あって、その情報を元にある条件をかけて抽出すると、どんな条件でもだいたい数万人程度は抽出できるのです。その人たちに宛ててECサイトの販促メールを打つわけですが、そうすると、一瞬のうちに物凄いコンバージョンレートで注文が殺到するんですよ。

ECの奥深さ、そして物流の面白さにはまる

Longine:それで、杉井さんもどんどん占いにはまっていくということになるのでしょうか。

杉井:いいえ(笑)占いは占いですごいのですが、私はその仕事をやる中でもっと引かれたのがこの会社が構築していた流通のシステムです。具体的にはほとんどすべての商品を生産者から直送してもらう方式をとっていました。サイト運営者側は売ることだけ注力していればよく、受注書を取れば発注して生産者から直送できる仕組みに興味を持ちました。そこで私は「一般のECサイト向けにいろいろな業種から事業者を集めてきて、プラットフォームを作ってあげれば、これは面白いことになるな」と思いました。

Longine:それで、その思いはどうされたのでしょうか。

杉井:当時は、まだ自分で会社やるほどの勇気がありませんでしたが、世の中にはそういうことをやっている事業者がちらほら出てきていました。いわゆる「ドロップシッピング」というやつです。私はこれに興味を持ち、そのうちの1社のサービスを試してみたところ、とにかくできが悪かったので、私が建設的なクレーム(笑)をいろいろ出したところ、その会社の社長に「ちょっと遊びに来ませんか」と言われて。

Longine:抱き込まれたのですね(笑)。

杉井:そうですね(笑)。結局、「サービスプロデューサーになってください」と言われて、サービスの大改造をやりました。ベンチャー企業でイケイケなところもありましたが、新しいビジネスの業態だったので、官庁との折衝などもたくさん経験しました。そうして流通、物流のシステムの最適化にも携わっていく中で、「ECというのはITの総合格闘技だな」という印象を持つようになりました。

ECサイトを確立させようと思えば、あらゆることをやらなければいけません。たとえば、メディア対応、販売促進、そして販売。売った後にはピッキング、梱包、配送、さらにはユーザーサポートまで、そういうことを総合的にやらなければならないのです。いわゆる「フルフィルメント」というやつですね。

Longine:Amazonなども今見ていると、そうですよね。

杉井:ええ。その中でも、売れてきたECサイトが必ずつまずくところが「出荷」ですね。この作業は一般の方々が思っているよりもかなりヘビーで、そのコストをどのように削減していくのかを突き詰めていくところから始まります。そして、その次に悩むところが「決済」です。決済コストをどうすれば低くできるのか、さまざまな方法を模索して最適化したものを作ることを追求していきました。

ECサイトの運営というのは、本当に奥が深くて、まったく簡単なビジネスではないのですが、ECプラットフォームを提供したい会社からすると「ECサイトは簡単にできるよ!」と言いたいですよね。加えて、儲かる、低リスクというのがよくある決め台詞です。ただ、私は「ECというのは総合格闘技なんだから、そんなに甘いもんじゃない!」と思っていましたし、実際にも5:95ぐらいで、上位5%程度の店舗で全体売上げの95%くらいを占めているというのがECサイトの実情なんです。

Longine:では、ECプラットフォームを成功させるために重要なのはどのポイントなのでしょうか。

ドロップシッピングの仕組み作りに立ち上がる

杉井:売れない20万店を集めるよりは、ちゃんと売れる2,000店を集めることですね。多くの皆さんは誤解しているかもしれませんが、ドロップシッピングは「簡単にお店が作れる仕組み」ではなくて「流通の革命」にこそ、その肝があるんです。それを伝えたくて、私は全国の有志に声をかけて「関西ドロップシッピング友の会」を立ち上げました。

Longine:杉井さんは関西ご出身なのでしょうか。

杉井:いえ、行ったこともなかったです(笑)。なぜ関西だったかというと、ドロップシッピングが流行ったその当時、5%の優良店の多くが関西にあって、やっぱり関西の方々は物を売るのが得意なんだと、私はデータを見てそう理解しました。そこで関西のマーチャントを対象にこの流通革命を啓蒙する方が効率が良いと直感が働いたんです。それで、ある関西のマーチャントさんが東京に遊びに来た時に、「関西ドロップシッピング友の会というのを作ります」と宣言して、流通会社、広告会社、運送業者、決済業者の方々に大阪の産創館(大阪産業創造館)に300人くらい集まっていただいて旗揚げしました。実はこの時、競合になる事業者の担当責任者も招いたのですが、そのうち2社の担当責任者が、2人とも現在のカレンシーポートの役員をしています。

Longine:なるほど。そこでみんなを巻き込んでいったのですね。

杉井:巻き込んでいきましたね(笑)。そのみんなが共通して言っていたのは「うち社長はいつも簡単な方に行く」ということです。私たち事業責任者はデータを細かく見ているので、どこに本質があるかが見えているわけですよ。一方、データもグロスで見ていると本質が分からなかったりします。また、メディア受けを考えると、やはり「店舗が20万店です」という方がインパクトがあるので、そういう易きに流されてしまうのかもしれません。

Longine:一方で、杉井さんは小売店の状況を見る限り、売れる小売店とそうでない小売店の数の比率は、5対95だと考えている。

杉井:そうです。その5%の優良な小売店を対象に、大企業に負けないインフラを提供したいと思い、事業組合を作って倉庫の契約や交渉をしたりしました。よく「流通の中抜き」という話が出てくるのですが、「流通の中抜き」なんて言っているうちは子供です(笑)。流通がいるからこそ費用削減(コストリダクション)ができるんです。では、流通は何やっているかというと、ひたすら地道に究極を求めて最適化をやっているわけです。

物流コストの肝とは

Longine:流通コストの考え方について、さらに具体的に教えてください。

杉井:たとえば、送料を安くしたい時、最初にどこに交渉に行きますか? たいていの場合、大手の輸送業者に相見積りを取りますよね、そして、安い方を選んで「うちは380円にしてもらった」などと喜ぶわけです。でも、私からすれば「そんなに高いのですか?」という話です。もっと安くする方法がありますよという話です。

Longine:それはどうすればよいのでしょうか。

杉井:巨大な流通網の中にどうしてもできてしまう遊休部分に滑り込ませるのです。流通センターなどとうまく交渉して、たとえば、月々に5万件以上の出荷を約束できれば、送料を200円台に落とすことは可能でしょう。また、段ボールなどの梱包材も複数のマーチャントで共通化すれば安くできます。ただ、送料が安くできるだけではトータルの物流コストはそれほど下がりません。一番時間がかかるのは、ピッキング、パッキング作業なので、これをいかに効率よくするかの方がはるかに重要です。

たとえば、ECサイトを個人でやっている方が自分で在庫を持ち、1個配送するのにどれぐらいかかるかを試算してみると、送料が500円。仮にもっと安く400円に収まったとしても、箱や梱包材の実費がかかるほか、ピッキング、パッキングするためにかかる時間の積み上げも馬鹿にならず、その人件費を考慮すると、実は1配送あたり800円から1,000円程度はかかっていることに気づきます。しかし一方で、配送料は全国一律500円程度でないと、お客様は納得しないですよね。ですから、お店がそれに応えようとすると、1配送あたり300円から500円ぐらいのマイナスが出てしまう計算になります。

そこで、私は流通センターに協力を仰ぎ、ピッキング、パッキングなどの費用を全部入れても、全国一律500円に収まるように出荷代行のサービスパッケージを設計し、全国のECサイトに使ってもらうという3PL(3rd party logistics)ビジネスを立ち上げ、2008年にECロジックス株式会社を創業しました。現在当社の創業メンバーである取締役CMOの伊藤みゆき、執行役員の金田東陽とは、この頃から一緒に活動しています。そして、そのメンバーに加えて、ブロックチェーン専門家として志茂博をCTOとして迎え、参画してもらってできたのが現在のカレンシーポートです。

カレンシーポート株式会社 杉井靖典 代表取締役・CEO

カレンシーポート株式会社 杉井靖典 代表取締役・CEO

ECを始めるのに必要なこと

Longine:10年近くほぼ同じメンバーでやってきているわけですが、事業をする上で苦労した点は何でしょうか。

杉井:仕入れをする時にデポジットをしなければいけない点でしょうか。ECを始める時に何が一番つらいかというと、何をするのにも最初にお金を積まなければいけないことです。中小企業ですから、バイイングパワーを集められたとしても、信用は簡単には得られません。信用の一番高い企業が10だとして、信用の低い個人商店を2だとしましょう。それなら2の人を5人集めれば10になるかといったら、やっぱり2はどんなに集めても、2にしかならないというのが世知辛いところです。

中小企業は信用がないので、仕入れ品は買取り在庫を持つことを要求されます。そうでなければ、取引メーカー各社に「3,000万円デポジットを積んで欲しい」というようなことを言われます。信用さえあれば、こういったものはほとんど求められないですから、中小企業がECサイトをやろうというのは初めから大きなハンディキャップを課せられていることになります。FinTechの中にもトランザクションレンディングがありますが、それ以前の課題として、キャッシュフローをもっと良くしなければいけないということに気づきました。「物流は物流で重要だけれども、それよりも先にお金回りの方が重要なんじゃないか」と考え始めたわけです。

Longine:キャッシュフローマネジメントでしょうか。

杉井:そうです。キャッシュフローマネジメントができること、引いては決済と連動させて掛け取引を減らすことが、今後のECのカギになるとその時に気づいたんです。

Longine:その事業はどうなったのでしょうか。

杉井:その事業もうまくいきませんでした。事業を始めてすぐの数か月は月々数百万円の売上がありましたので、この時は、よし、これで行けると思いましたね。しかし、事業も軌道に乗るかと思われた2008年9月、リーマンショックで、お世話になっていた流通センターさんが倒産してしまい、それに引きずられて当事業もたたまざるを得なくなってしまいました。

ツイートを通じて出資をしてもらう機会を得る

Longine:その後はどうなるのでしょうか。

杉井:一時はホームレスになる可能性もありました(苦笑)。しかし、家族の理解や多くの方の助けで新しいチャンスに巡り合うことができました。最初のうちは何をやったらいいか本当に分かりませんでしたが、たまたまTwitterで「廃業届出してきたなう」というツイートをしたところ、それに返答をくれた人がいたんです。「やることがないならEPUBやろうぜ」と。この時、声を掛けてくれた人も実は、今ではカレンシーポートのメンバーなんですよ!

Longine:それにしても、凄い巻き込み力ですね。ところで、EPUBとは電子書籍のことですね?

杉井:「EPUBやろうぜ」と言われた当初、私はEPUBが電子書籍のフォーマットだということを知りませんでした。それで、EPUBについて調べつつmixiでその方と議論を続けていたら、いろいろな出版関係の人が、そのやり取りを嗅ぎつけてきてすごく盛り上り、「よし!これをやる」と決めました。そして、「杉井はECの決済をやっていたからEPUBを販売ができるプラットフォームを作ってくれ。こちらはコンテンツを作るから」ということで、電子書籍のプラットフォームを作ることになりました。その間、自分のアイデアで特許も申請したことなどをツイートしていたら、出資をしたいという人がでてきて2010年9月1日に株式会社メディエッグを設立しました。

Longine:その後、メディエッグの事業はどうだったのでしょうか。

杉井:メディエッグではメディアと電子書籍の流通プラットフォームをやろうと思ったのですけども、またここで悲劇が起こります。

Longine:何が起こったのでしょうか。2010年といえば、リーマンショックから立ち直り、世の中の景気もちょっと良くなってきたかというような印象もありますが。

杉井:2010年というと、電子書籍の大きな波が来た時ですね。実は当時、今のFinTechブームより巨額な資金がその産業に投資されていたことをご存知ですか? 当時、AppleやAmazon、Googleといった海外勢が電子書籍分野にこぞって参加してきたのを受け、国内では黒船騒動さながら、大手印刷会社や大手家電メーカーといった大企業が競うように、数十億円規模の出資を決めて電子書籍の配信プラットフォームを作り始めました。私たちは当時、出資金が3,000万円程度ありましたが、そうした企業との資金調達力を比べると、とてもじゃないけれど太刀打ちできませんよね。

Longine:また資本の論理ですか。

杉井:はい。ただ、お金の話だけではありません。私たちは当時ITのノウハウを駆使して電子書籍を効率的に作れるプラットフォームを開発していたこともあり、電子書籍分野への参入を考えている企業からもそのことをよく聞かれていました。そこは事業になるかと思い丁寧に対応していたのですが、結局は情報を提供するだけで終わりになってしまいました。

追い打ちをかけたのは、経産省の旗振りで始まった「コンテンツ緊急デジタル化事業」です。この事業は、当時ほとんど存在しなかった電子書籍を増やすためのもので、新規参入事業者も参加できるとアナウンスされていましたが、私たちはそのチャンスをつかめませんでした。それで、会社を設立して1年くらいたった時に、メディエッグに出資してくれた方が、「出資を回収させてもらえませんか」ということで、責任を取るという形で私は借金を作ることになりました。

FXで動画サイトの人気者に。そして貯金ができる

Longine:その後、どうなってしまうのですか。

杉井:自分に何ができるのかと何度も自分に問いかけてみました。ところが、何も思いつかないし、もう何もできないと。そこで、ちょっとだけ残った25万円ほどを、その時は自暴自棄だったと思いますが、FXに突っ込むわけです(笑)。ただ、FXなんて初めてでよく分かりませんので、最初は勝ったり負けたりするわけですが、だんだんコツが分かってきて、また向上心が芽生えたんですね。どうやったらもっとスキルが上がるのだろうかと考え、結果として生トレーディングのFXの放送を始めました。FC2を使いつつ、Ustreamとサイマルで出せるようにしました。

Longine:視聴者の反応はどうだったのでしょうか。

杉井:FC2を選んだのが正解だったと思います。FC2は、山っ気のあるとっぽい人が集まっていますし(笑)。結果、とても人気が出て、私のチャンネルは、大人向けの一部のカテゴリを除いてずっとナンバーワンでした。

Longine:当時はどういうモチベーションだったのでしょうか。

杉井:相場は毎日ネタが尽きないコンテンツです。自分には「ここで稼いでいれば、なんとかなる」と言い聞かせていました。最初は下手くそだったのですけど、素人とはいえ放送コンテンツですから、自分がこれから行うトレードの根拠を客観的に説明できないといけないわけですね、それを晒していたらだんだんコツが分かってきて最後は教える立場になっていました。そうしたら、私の番組にFX会社のスポンサーなども付くようになって、なんだかんだで結構な額のお金が貯まったので、また何かやろうと血が騒ぎ始めまして(笑)。たまたま、Twilioという電話のAPI(Application Programming Interface)のハッカソンがあることを知り、参加して電話で決済できるシステムを、そのハッカソンで作りました。

Longine:いよいよカレンシーポートの話でしょうか。

杉井:いや、カレンシーポートにたどり着くまでにもう1社、ポンク株式会社というのがあります。先ほどお話しした電話で決済を行うというアイデアで作った会社で、カレンシーポートの元になった会社でもあります。ECロジックスの時とほぼ同じメンバーで始め、最終的には流通プラットフォームを、そしてサプライチェーンマネジメント・プラットフォームを作りたいわけですよ。ただ、私たちも過去に流通をやったけれどパワープレイで負けたから、今度は決済という領域にシフトしました。

Longine:ここまでくると杉井さんのお話の内容に対して多少免疫ができてはいるのですが、ポンクはどうなったのでしょうか。

杉井:それはご想像の通りです。ここでまたつらい話があってですね(笑)、ポンクには幸い早いうちから出資をしたいという人が出てきたのですが、その後いろいろと漫画のような茶番劇があって、結局資金調達に頓挫するというのが1年半ぐらい繰り返され、当初の資金を食いつぶしてしまいました。ダメな時はダメで、うまくいかない時には、ずっとうまくいかない連鎖が続くものですね。この頃にはポンクのメンバーも疲れきっていましたし、みんなお金もなくなり、私は家もなくなりました。ですから、出資者に1回会社を整理しますと説明し、ただ、決済システムの開発は続けたいのでと、きちんとステークホルダーには筋を通して話し合い、ようやく今のカレンシーポートができる前段階にまでたどり着きました。

最後は信用力の壁-どう乗り越えたか

Longine:いよいよカレンシーポートができるわけですね。

杉井:実はカレンシーポート株式会社ができる前に、それにまつわる重要なエピソードがあります。某大手企業とのコラボレーションで、我々はカードのプロセシングのシステム上でマルチカレンシーでエクスチェンジできるシステムを作っていました。円、ドル、ユーロに加えて、ビットコインなど仮想通貨も含めてエクスチェンジできるという仕組みです。そのシステム導入を検討してくださった大企業のお客様がいらっしゃったのですが、創業1年足らずの会社とは直接契約を結んだ前例がないという理由で、なかなか取引口座を開くことができなかったのです。そのような状況で、2015年にMUFGフィンテックチャレンジがあって、そこで「これで賞を取れなかったらやめよう。もうやめよう。もう何から何まで全部やめよう」と決心し、現プラットフォームの基となる仕組みを出展しました。結果、決勝まで行ってしまったんです。しかし決勝ではあまりプレゼンが上手くできず、残念ながら受賞はできませんでした。賞もとれなかったし、もう全部終わりかなと思ったそんな時に、私たちの地味な技術に着目してくれたのがISIDだったのです。

Longine:ISIDはどのようなサポートをしてくれたのでしょうか。

杉井:フィンテックチャレンジの直後、「実は、大手さんから頼まれている案件があるのだけれども、ポンクの信用がなく取引口座を開くことができないのです」と相談をしました。同時に、「ISIDさんも取引の中に入ってもらえませんか」と強くお願いをして、交渉を重ね、ISIDに間に入ってサポートしていただき、取引口座問題を解決することができました。その時点ではすでに、ポンクを会社としてたたむことを決心していたので、新たに付けた屋号が「カレンシーポート」なんです。このような経緯で、その仕事をやり遂げました。

Longine:取引口座問題は解決しましたが、実際の仕事はどうだったのでしょうか。

杉井:それがまた、大変でした(笑)。当初は米国のMoney20/20で発表するためのモバイル決済システムのバックエンド部分を開発するという案件でしたが、Money20/20に加えてFIT(Financial Information Technology)展でも発表したいという話になり、この両方のバックエンドも私が作ることになりました。再委託禁止の案件だったので、私が1人で作り上げなければいけなかったのですが、ここからが地獄です。2015年10月15日に本番を迎えるこの仕事のオファーを最初に受けたのは2月ですが、取引口座開設の与信調査の都合でなかなか作業に取りかかることができず、6月のMUFGフィンテックチャレンジも過ぎて、ISIDに間に入って調整してもらうことになったのが7月です。

Longine:時間がどんどん無くなってきますね。

杉井:はい。展示会まで1か月を切った、9月16日になってようやく正式な発注書が出たのですが、先方はそこからAPIを通じてモバイルアプリに組込みを行わないといけないので、納品までには実質2週間しか残されていませんでした。

Longine:決済システムは、たった1人で2週間という期間で作れるのですか。

杉井:何とかやりました。ただ、10月初めに「マネー×IoT」をテーマとして開催されたNRIハッカソンで、このAPIが使われることが8月時点には決まっていましたので、基礎的な共通部品は先に着手はしていたこともあって助かりました。ただ、開発のベースはあったにせよ、発注が決まってから2週間で納品です。もうほとんど毎日寝られる状況ではありませんでした。9月28日時点で、まだ全然でき上がってない感じだったのが、最後の3日間で、ドドドドド!っと成果物ができました。

こんな突貫工事でしたが、30日には全作業を終え、無事納品ができました。しかも納品後には1件もバグが報告されなかったことが自慢です。そして、その1週間後に開かれたマネー×IoTのハッカソンの時にも2日間で3万回くらいAPIが叩かれましたが、ここでも1件もバグが出ませんでした。しかし、張りつめていた気が解けたのか、僕本体にバグが出てしまいハッカソン当日の夜、幕張メッセの通路で倒れて守衛さんに助けてもらいました。話がそれてしまいましたが、皆様のお力添えにより、カレンシーポート株式会社を2015年10月1日に設立することができました。

Longine:(後編)ではカレンシーポートの技術やサービスの内容について教えてください。

杉井:はい、じっくりお話しさせてください。

※後編はこちらから