Interview

財産ネットは“フィナンシャル&ネットビジネス”でフィンテックを塗り替える

財産ネット株式会社 荻野調 代表取締役社長 × Longine Fintech取材班

今回は、財産ネット株式会社 荻野調 代表取締役社長に、同社の投資情報ツール「兜予報」と資産管理ビジネスの展望について伺いました。

読者に伝えたい3つのポイント

財産ネット株式会社は、ネットビジネスに豊富な知見を持つ荻野調代表取締役社長により2015年に設立されました。

天気予報のように1時間後の株価動向を予想する「兜予報」は、精度の高さで評判を呼んでいます。

アッパーミドル層を対象とした資産管理プラットフォーム事業も、今夏の本格展開に向けて準備中です。

フィンテックは、なぜ面白いのか?

Longine Fintech取材班(以下、Longine):初めに、荻野さんのバックグラウンドや御社の設立経緯を教えてください。

財産ネット株式会社 荻野調 代表取締役社長(以下、荻野):私は、インターネット黎明期からネットビジネスに携わってきました。20代はソニー等でインターネット関連の新規事業立ち上げを経験し、30代にはVCで8年半ほど投資活動を行い、その後グリーにて事業開発部や子会社を率いた後、2015年に財産ネット株式会社を創業しました。

Longine:ICTやネットビジネスの経験が豊富な荻野さんが、フィンテックに関心を持たれた理由を教えてください。

荻野:金融ビジネスからではなくネットビジネスから見ると、フィンテックの魅力というのは“ファイナンシャル&テクノロジー”ではなく、“ファイナンシャル&ネットビジネス”だということに気が付いたからです。

金融業界は、テクノロジーから取り残された分野では全くなく、むしろ、先端的なIT技術を活用しています。たとえば、株式の高速取引やセキュリティの分野などが典型的な例で、技術的にも最高水準だと思います。一方、インターネットを利用して消費者にサービスを届けるというネットビジネスの観点では遅れている面も見受けられます。アパレルや靴などを扱う一般消費財のネットビジネスでは常識となっているマーケティング技術やノウハウ、顧客へのモチベーションの与え方といった考え方が、金融分野では理解されておらず、活用もされていません。そこに大きなチャンスがあると考えています。

Longine:ネットによる消費者へのリーチや口座開設へのコンバージョン、取引の実行という一連の流れは、消費財も金融商品も基本的には同じですよね。

荻野:そうです。とはいえ、銀行のネットバンキングのUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)は、消費財のECサイトに比べると非常に見劣りします。これまでUIやUXに注力する必要性が低かったのでしょう。しかしUIやUXに加えてマーケティング手法も改善できれば、金融系ネットビジネスにもまだまだ非常に大きなポテンシャルがあると思います。

Longine:マーケティングも遅れているということですか。

荻野:たとえば、対象とする市場を「関心がない層」、「潜在的なニーズがある層」、「購入意欲が高い層」、「購入層」などに細かくセグメンテーションし、それぞれにターゲティングして顧客にアプローチするというネットビジネスでは当たり前の考え方を実践されている金融機関さんは、まだまだ少数派という印象です。

しかし、これは大きなチャンスとも言えます。ネットの世界での常識を金融の世界に持ち込んでいけば、一気に存在感を高めることができるからです。これがフィンテックをやることの面白味だと考えています。

Longine:それ以外にフィンテックの魅力や旨味はありますか。

荻野:金融の取引単価が非常に高いことも魅力の1つです。たとえば、アパレル商品だと1回あたりの取引金額はせいぜい5,000円ほどです。それに対して、私たちがネット証券に送客した顧客が株を売買するときのトレードは最低でも50万円ぐらいが動きます。つまり、顧客単価・取引金額に100倍の差があるのです。

でも、やっていることは基本的に消費財のECと同じです。靴を買うのか、株を売買するのか、それだけの違いです。

現在の主力ビジネスは「兜予報」

Longine:御社が最初に立ち上げられたビジネスは、経済ニュースによる相場への影響を可視化するための新メディア、兜予報だと伺っています。そのサービス内容について少し詳しく教えてください。

荻野:兜予報は、株価に影響を与えそうなニュースを選び出し、専門家であるアナリストやトレーダーが、ある一定時間内に、そのニュースが株価に対してポジティブあるいはネガティブであるかを投票し、その投票結果を天気予報のように伝えることができる個人投資家向けのサイトおよびアプリです。

Longine:すべてのニュースではなく、キュレーションしてから見せる理由を教えてください。

荻野:株式投資にとって大部分のニュースは不要だからです。実は、ほとんどのニュースは株価にとってノーインパクトなのですが、それでも投資家が血眼になって常にニュースをチェックしているのは、99%が不要でも残り1%が重要だからです。その1%だけを見せる、キュレーションした情報サイトを提供することが重要だと考えました。

Longine:なるほど。でも、そのニュースで上がるのか下がるのか、ポジティブなのかネガティブなのかの判断がより重要ですね。

荻野:その通りです。そこで、私たちは提携先証券会社に所属するアナリスト等に投票してもらう仕組みを導入しました。当然ながら精度を伴わないとアクティブトレーダーにとって意味がないのですが、天気予報並みに当たります。Yahooファイナンス上の「投資の達人」でも個々人としては継続的な勝率は6割程度ですが、当社では多数決という仕組みを用いて、8割程度の精度を実現しました。つまり、5回やると4回程度儲かる可能性があるということになりますので、これを利用するデイトレーダーが兜予報にはたくさん集まってきています。

トレードをしたい方が参考とする情報には色々ありますが、たとえば経済誌や株関連の雑誌ですと締め切りは発行の数週間前が普通です。これだと鮮度がありません。新聞にしても前日ですので、デイトレーダーが使うには遅すぎます。一方で、ツイッターだとリアルタイムではあるのですが、今度はノイズが増えてしまいます。

このあたりを上手くキュレーションして提供してほしいというのが、多くのデイトレーダーの願いなのですが、兜予報はそうしたニーズに十分に応えているという手ごたえがあります。

Longine:上場銘柄の全てを対象にしていますか。

荻野:ニュースが出てから株価に織り込まれるまで、だいたい1時間ぐらいのタイムラグのある中小型のデイトレーダー銘柄を意図的に選んでいます。具体的には、機関投資家が大金を振り向けるには小さすぎるけれど、デイトレーダーには十分な流動性が確保されている時価総額100~1,000億円ぐらいの銘柄群が対象となっています。

財産ネット株式会社 荻野調 代表取締役社長
財産ネット株式会社 荻野調 代表取締役社長

Longine:兜予報ではどの程度のアクティブユーザー数の獲得を目指していますか。

荻野:日本全国のアクティブトレーダーの数は大雑把に捉えて30~50万人しかいません。しかも、そのうちデイトレーダーは約5万人に過ぎません。しかし、その5万人がネット証券の約7~8割の売上を占めています。

ネット証券大手5社の売上高は合計3,000億円程度ですので、デイトレーダーは2,000億円ぐらいの売上を作っているという計算になります。つまり、たった5万人によって日本のネット証券業界は支配されているということなのです。ですから、このうち1万人に兜予報のアクティブユーザーになっていただけるだけでも非常に事業価値・インパクトがあると考えています。

Longine:ネット証券の市場を伸ばしていくためには、投資未経験者をアクティブトレーダーに、さらにアクティブトレーダーを毎日トレードするデイトレーダーに変えていくことが必要ですが、兜予報にはそうした役割も期待できそうですね。

荻野:2016年5月にアプリをリニューアルし、投資未経験者でもデイトレードがどのようなものか理解できるようにしました。このアプリをダウンロードした人の20%近くがデイトレードを学びたいという意思を持った挙動を示しており、その半数がアクティブトレーダーへと成長していくのではないかと思われる数字が出ています。現状では、デイトレーダー候補が送客後どの程度活性化しているか計測中ですが、うまくいけば、そうした初心者さえもアクティブトレーダーに育ててネット証券へ送客することも可能になると考えています。

既に兜予報のサイト上には数万人のユーザーがいますが、加えてツイッターでもフォロワーが1万人を超えています。また、ランチタイムにはネットで相場情報を伝える兜予報主催のライブ放送も行っており、そこにも千人規模の視聴者がいます。

Longine:とはいえ、ネットの世界では1万人のアクティブユーザー数というのは、それほど大きな数字ではないですね。

荻野:ネットメディア・ネットビジネスとして見たとき、数万人はゼロに等しい数字です。しかし先ほど申し上げたように、フィンテックでは取引単価が100倍違いますので、数万人でも十分に価値を生みます。

ユーザー数については、ネット広告にお金をかければいくらでも増やせるものですが、私たちが重視しているのはライフタイムバリューという考え方です。1ユーザーを獲得するために、どれだけのコストが発生したのか、また、それによりどれだけの売上を増やせたのかというKPIの検証が重要です。

ネットビジネスの世界の人でこうした考えを知らない人は多分いないと思いますが、金融ビジネスの世界ではほとんど知られていません。これはネットビジネスの人間から見たらチャンスと映ります。金融の世界では一般的ではないノウハウをたくさん持っている、これが私たちの強みです。

次のターゲットは財産管理プラットフォーム事業「資産の窓口」

Longine:ライフタイムバリューを上げていくためには、せっかく兜予報に来て株に関心を持ってくれたのに、デイトレーダーにはなれなかった人をつなぎとめておくための受け皿が必要ですね。

荻野:その通りです。ライフタイムバリューを高めるために重要なのが、この夏から本ローンチ予定の「資産の窓口」という財産管理プラットフォーム事業です。

兜予報には株式投資で資産形成を始めたい人が集まってきますが、全員がデイトレーダーになれるわけではありません。たとえばサラリーマンで30分おきにサイトをチェックできないとか、その理由は様々ですが、95%のユーザーはアクティブトレーダーにはなり切れずに脱落すると考えています。財産管理プラットフォーム事業ではそうした人に対しても、しっかりとした資産形成の方法を提案できる仕組みを提供します。

Longine:いわゆる“財産のマネジメントツール”、あるいは“ロボアドバイザー”的なものですね。他社との違いを教えてください。

荻野:私たちは、特に消費者が何を求めているかという視点を大切にしています。まず、匿名で使えるようにしています。金融機関は個人情報を取りたがる傾向がありますが、消費者視点だとまだ商品の説明も受けていない、購入するとも決めていない、あるいは他社商品も比べたいというフェーズにおいて、個人情報の記入を求められることには非常に抵抗感があると思います。そうしたストレスがないように、ログインのためのメルアド以外は取得しない仕組みにしています。

もう1つの差別化ポイントは、「この間設立したばかりのベンチャーですが、お金を預けてください」とお願いするのではなく、既存の金融機関が組成している様々な金融商品を客観的にかつ簡単に比較検討できる仕組みを提供し、多くの金融機関様と協業できるモデルを組んでいるところにあります。

Longine:どのような消費者をターゲットにしていますか。

荻野:ターゲットにしているのはアッパーマス層や、その上の準富裕層です。たとえるなら“大手町周辺で働く豊かな中流層”というイメージの方々です。

一流企業にお勤めといっても、50歳くらいまでは子供の教育費等にお金がかかっているので、50歳時点での金融資産は1,000万円程度と運用資産はほとんどありません。しかし子供が独立した後の約10年間で2,000万円ほど蓄え、退職金で2,000万円程度を受け取り、定年退職時には合わせて5,000万円ぐらいの金融資産を持つことになります。これが今の典型的な一流サラリーマンの姿かと思いますが、こうした人たちをターゲットにしています。日本では、1,000万世帯ありますので人口の4分の1ぐらいの規模感です。

Longine:金融資産の大半を貯金だけで運用しているセグメントですね。

荻野:金融資産が1億円を超える富裕層は、プライベートバンカー(PB)から色々な提案を受けて、アセットアロケーションの考え方など一定の金融リテラシーも持つことになります。しかし、アッパーマス層は、ついこの間まで1000万しか持っていないマス層ですから、PBから接触される機会はほとんどありません。そのため、定年時に5,000万円の金融資産を持っていても、それをどのように運用・管理したらよいか、誰も教えてくれなかったので知らないし、よく分からないという人が大多数ではないかと思います。

Longine:そうした人々が資産の窓口のターゲットになるのですね。

荻野:はい。当然、お金のことなので、それほど簡単に動かせるとは考えていません。とはいえ、とにかく母数が大きいということが私たちのビジネスにとってはとても重要です。私たちが狙う市場は、500兆円(1,000万世帯×5,000万円)の一部です。とりあえず1%、10万人を狙っていきますが、それだけで5兆円になります。

10万人の獲得が実現すると、5兆円がどのようにアセットアロケーションされているのかといったデータが瞬時に把握できるようになります。自行口座の預け入れ資産しか把握していない既存の金融機関では、そうしたデータは意外と持っていないものです。

ちなみに、5兆円分の資産情報を把握している金融機関は、大手の一部ですけれども、弊社のサイトでは2~3か月で収集可能です。先ほども申し上げたように、ネットの世界で10万人規模というのは、そもそもそれほど大きな数字ではありません。ヤフーや楽天などのインターネット事業者はどこも数千万人を対象としたビジネスを展開しているのですから。

Longine:資産の窓口は、まだベータ版の段階かと思いますが、今後どのような特色があるサイトに作り込んでいくお考えですか。

荻野:使いやすさにこだわりたいと思います。消費財のECサイトですとワンクリックで全てが完了するのが基本ですが、金融機関のサイトは非常にインプット画面が長く面倒です。

弊社のサイトでも、“ライフプランツール”にデータを入力していただくことになりますが、これが高齢の方でもストレスなく簡単に入力できるように、さらに作り込んでいく予定です。

ライフプランツールでは年代、世帯年収、現預金等、株式投資等、自宅、銀行ローンの6項目だけを入力するようになっています。それも精緻な数値ではなく、ざっくりとした数値で問題ないように設計されています。また、個人情報はログイン情報となるメールアドレスだけで、それ以外は取得しません。

こうしたデータを登録するだけで、お客様世帯のB/SやP/Lが把握できるようになり、収支改善や運用改善がサイト上で確認できる仕組みになっています。

Longine:ただし、診断だけで終わってしまう可能性もあります。

荻野:そうですね。診断結果を見て、すぐに自分から証券会社に出向いて相談するといった能動的な行動を起こす人は、そもそもほとんどいないと考えています。そこで、お客様は待っていればいいように、私たちは診断を終えた顧客に対して、金融商品側(金融機関のセールスアドバイザー)が直接アプローチする仕組みを考えました。

世の中には金融商品があふれていますが、それを上手く消費者に合った形で説明しきれていないのが現状です。万人に対してブラジルレアル債がふさわしい訳はないですよね。この仕組みであれば、セールスアドバイザーが適切な顧客セグメントに対して適切にターゲティングされた金融商品を、最初にコンタクトした段階から薦めることができるようになります。

顧客が並べられた商品を比較検討して自分で選ぶというモデルをうまくやっているのが「保険の窓口」だと思います。特別な保険商品はありませんが、複数の保険商品を並べ、消費者が選べるようになっています。一番重要なのは、消費者が複数の金融商品から自分で自分に合ったものを選べるということで、自分で選んだものには納得感が高くなります。

Longine:最後に、これからの展望を教えてください。

荻野:ナンバーワンの金融機関になることはベンチャー企業には困難ですが、オンリーワンのサービス提供を目指します。

また、海外進出も予定しています。先日のアメリカ出張時に金融機関のみならず、FRBやナスダックの方にもヒアリングをしましたが、兜予報と類似のモデルはなく、StockTwitsの上位互換としてビジネス展開できるだろうとの感想をいただきました。ナスダックの証券市場システムは各国の80か所の証券取引所で使われており、世界的には100回以上のビジネスチャンスがあります。

Longine:本日はどうもありがとうございました。

荻野:こちらこそ、ありがとうございました。