Interview

デイトレーディングの苦しい経験から生まれたCapitalico-FIBC2016大賞

Alpaca CEO 横川毅 × Longine Fintech取材班

今回は、Alpaca CEOの横川毅氏に、同社のサービスやその技術的背景、また今後の事業展開についてお伺いしました。

読者に伝えたい3つのポイント

Alpacaは前身のIkkyo Technologyも含めて大学の同級生3人で創業しました。

Capitalicoは自分がやっているトレーディング手法やアイデアの自動化をプログラミングなしでできるというツールで、自動化後にバックテストも行い、結果も簡単に見られます。

画像処理やディープラーニングを活用しつつも、トレーディングに必要なデータは限られていることもあり、「何ができるのだろうか」と自問自答しながら、試行錯誤しながらやっています。

Alpaca DB創業に至るまで

Longine FinTech取材班(以下、Longine):FIBC2016の大賞受賞、おめでとうございます。今回受賞されたサービスのお話をお伺いする前に、まずはAlpaca創業のきっかけについて教えてください。

Alpaca CEO 横川毅(以下、横川):話は3年前に遡りますが、2013年2月に現在のAlpaca創業メンバーで、株式会社Ikkyo Technology(イッキョウテクノロジー、以下Ikkyo)を立ち上げました。「イッキョウ」とは、合気道の技の名前です。「一つの教え」と書き、合気道のベースとなる型を意味します。一緒に創業した林佑樹(Alpaca Chief Engineering Officer)が合気道マスターなのですが、「技術会社を作るんだ」という気概を込め、Ikkyoと名付けました。

林は、モバイルゲームが爆発的に普及していく渦中での任天堂やノキアにて、大規模な分散ネットワークシステムや、元々得意としていた3Dグラフィックス関係のコアモジュールの開発に携わってきた過去があるのですが、Ikkyoを始めた時は、分野は違えどその分散処理や徹底的な高速化のノウハウを活かして、大手製薬会社のセールスレポートを従来の数十倍のスピードではき出す分散インメモリデータベース作ったりしていました。ところが、受託ビジネスが中心では事業として全然伸びないことに悩んでいました。

Longine:Ikkyoはその後どうなったのでしょうか。

横川:Ikkyoは、2012月に立ち上げ、2015年2月にリストラクチャリングをしていています。米国のデラウェアにAlpaca(アルパカ)DBを立ち上げて、Ikkyoから株主を移しました。Ikkyoは今、Alpacaの日本の子会社として存在しています。

創業メンバーについて

Longine:創業メンバーであるエンジニアについて教えてください。

横川:3人で創業したのですが、私を除いた2人のエンジニアは大学時代の親友です。先ほどお話に出ました林は小学校から既にプログラマーであり、ハッカーのような存在でした。大学卒業後は、任天堂に入社するのですが、その以前から、ネット企業と慶應SFC(湘南藤沢キャンパス)との産学連携で協業していたところの技術責任者でした。また、国内通信事業者のビジュアルエンジンを、林がアセンブリで書いて納入していたこともあります。中学時代はmegademo(メガデモ)というハッカーシーンで小さいサイズに画像と映像と音を落とし込むということをしていました。

原田均(同社 Chief Technology Officer)はデータベースが専門です。大学時代からシステム開発会社でインターンをして、航空会社や旅行サイトの検索エンジンを開発していました。また、ちょうどその頃、PostgreSQL(ポスグレ)のコミュニティも趣味でやっており、けっこう有名でした。それが世界中で知れ渡ったことでEMCの技術部門からヘッドハントがかかり、EMCに入りました。当時、EMCがGreenplum(グリーンプラム)という並列分散データベース会社を買収したため、そのチームのアーキテクトをやっていました。そして、そのグリーンプラムのコファウンダーが今、僕らの会社の社員です。

Alpaca創業後の変化

Longine:IkkyoからAlpacaに経営の基盤が変わる中で会社としてはどのような変化があったのでしょうか。

横川:以前は、僕はある意味、「何も作らない営業」をしていたのですが、需要に対してプロダクトを作るというアプローチを採るようになりました。「こういうのがあれば、プロダクトになるのでは」というように最大公約数を作るイメージで画像認識のマシンラーニングのプロダクトを作りました。同時にディープラーニングも出てきので、それらを活用した画像認識のウェブサービスを作ってみようというのがLabellio(ラベリオ)というサービスです。

Longine:プロトタイプから商品にまで結びついたわけですね。

横川:2015年6月にリリースされたのですが、営業で苦労する中、モチベーションを維持するのが難しくなり、創業メンバーの林と原田に相談しました。行き詰っていたので、3人で話し合うことになりました。

僕は大学卒業後、リーマン・ブラザースと野村証券に在籍し、野村証券を辞めた後はFXのデイトレーディング(デイトレ)を3年ぐらいやっていました。デイトレをしている当時のすごくやりにくい環境が印象的で、そうしたデイトレ環境を改善する問題解決のためのソリューションを提供したいということに行きつきました。

Longine:そもそもなぜデイトレに行きついたのでしょうか。

横川:しっかりと調査すればアルファを大きく取ることのできる金融商品はあります。しかし、機関投資家は買えるのですが、僕個人で買いたいなと思っても買えない商品であることも多いです。市場のベータに関係のない領域で運用ができ、かつ流動性が高く、個人でも簡単にアクセスすることができるのはFXだと思い、デイトレを始めました。僕なりの資産運用における解決策がデイトレというわけです。

Longine:デイトレからどのようにして今回FIBC2016で大賞を受賞したCapitalico(キャピタリコ)のアイデアにつながるのでしょうか。

横川:デイトレで勝つために必要なのは、非常に地道な職人技を鍛えるための作業の積み重ねと言えます。トレーディングそのものは反復練習の要素もありますし、お金がこう動いたら「自分はイグジットしたい」とか、損をしたら「ああ、これはしばらくすれば戻る」と思って損切りできないなど、心理的に大きなストレスがかかります。

なかなかうまくいかないという涙を流しながら、それでも必死にコツコツやる中で、「ああ、こうすれば勝てるかな」というアルゴリズムのような型ができてきます。ただし、今度は自分の型でトレードをしようとすると、これまたそのルールに従うにもストレスがかかる自分の心があり、「つらいなあ」と思いだします。

「なんでこれ、機械でできないのだろうか」と思い、自分の型を機械化しようと考えます。MQL(Meta Quotes Language)というエキスパートアドバイザー(EA)を作ろうとするのですが、全然思ったとおりにプログラムが動きません。僕もプログラマーではないので、ファインチューニングとか、マシンラーニング等はできません。結局、毎日十数時間張り付いてやっていたという感じです。だから、その痛みを解決したいな、というのがあります。

僕はこの会社でそのソリューションを生み出したい、という話を創業メンバーである3人でしました。そして、その思いを実現しようという話になり、画像処理技術とディープラーニングのベース技術をトレーディングに展開できるかどうかを検証し、ピボットを繰り返したのち、Capitalicoとしてサービスを開始しました。

Alpaca 横川毅 CEO
Alpaca 横川毅 CEO

Capitalicoの目指すものとは

Longine:改めてCapitalicoのサービス内容について教えてください。

横川:トレーダーツールを作ることです。具体的に何するかというと、自分がやっているトレーディング手法やアイデアの自動化をプログラミングなしでできるというツールです。自動化したらバックテストも行い、結果も簡単に見られます。また、自動化されたものを、第三者にも売れるようなマーケットプレイスにもしたいと考えています。

Longine:かなり開かれたトレーディングツールになるということでしょうか。

横川:そうなれば当社のサービスを使う人は、トレーディングツールを作る人以外にも、それを活用し投資をしに来る人もいるでしょうから、それらを一つのアプリでやろうと考えていました。したがって、ウェブブラウザ版ではなくモバイル向けにアプリを提供する必要があると思い、モバイルに舵を切って、2016年3月11日にiOSアプリを出したというのが直近です。

Longine:反応はいかがでしょうか。

横川:これが実際は想定とは異なっていまして、課題が見えてきました。トレーダーツールとして精緻に作りたい人には帯に短し、テクニカル分析などは分からないが興味があるという人には襷に長しという状況です。今後は、超プロ向けの、本当に作る人向けの領域にフォーカスしようと考えまして、結果モバイル向けではなく、デスクトップのウェブブラウザで使うイメージを持っています。

Capitalicoの技術背景について

Longine:Capitalicoは画像処理技術を活用していると思いますが、どのように活用しているのか教えてください。

横川:以前、画像認識を扱って思っていたのは、汎用的なものを作るのか、それとも個人の人間の判断を自動化するのかという、2つポイントがあるということです。グーグルは、「汎用的に強いAIを作ります」というアプローチですが、僕らが画像認識の受託ビジネスをやっていて気づいたのは、1つ1つの問題が違うということです。

たとえば、「特定の日本人の子供を認識できる仕組みを作れ」といっても、汎用的なものとして「子供の日本人の顔」というサンプルデータ自体がインターネットにあまり落ちていません。結果、グーグルがそれを学ぶことは難しくなります。たとえば、ヒヨコのオスかメスかを認識をさせようとしても、日本の職人業(わざ)の目利きの人が教え込まなかったら、グーグルもそれを分からないでしょう。

Longine:AIの向き不向きはどのようなポイントで切り分けられるのでしょうか。

横川:一般人の目と職人の目の違いでしょうか。トレーディングは、職人の目、もっと言うと職人の思考回路に僕たちはフォーカスしています。一方で、AI、AIと騒がれている中で、多くの注目を浴びているのはまさに汎用的な強いAIを作る方向です。とにかくデータを食わせて、何の人間の判断を入れずに導いてもらおう、というアプローチなんですが、僕らはそうではない方向に向かっている感じです。

Longine:ディープラーニングについてはいかがでしょうか。

横川:ディープラーニングというくくりの中でも様々な種類があります。画像認識はコンボリューショナル・ニューラル・ネットワークですが、今メインで使っているのはリカレント・ニューラルネットワークをベースとしたものです。その他にも戦略の最適化のためにAlphaGoで使われているような強化学習を適用したり、トレーニングデータ不足を解消するために生成モデルと呼ばれるネットワークで擬似的なチャートデータを生成する試みを行ったりと、最新のアカデミアからの提案手法も少し応用すれば役立ちそうなものは片っ端からタイムリーに検証しています。ちなみに林は早くからゲーム業界でエンジニアをしていたのですが、その頃は1人のエンジニアがグラフィックスもサウンドもゲームシステムもAIもカバーするような世界だったらしく、今のようなディープではないもののニューラルネットワーク関連の技術にも昔から触れていたようです。

Longine:画像処理とディープラーニングはどのように掛け合わせるのでしょうか。

横川:ディープラーニングとネットワークを組むとか、ネットワークをどうチューニングするとか、どうやったら過学習しないように振り分けるとか。そういうディープラーニングの、ネットワークのノウハウは蓄積されてきています。一方で、どのようなデータを入れるというのは、たとえば、画像を入れるのかもしくは金融データを入れるのかで全然違います。金融データは画像と違い、「これがパソコンですよ」とか「これがコップですよ」という、汎用的な知識を入れるというより、ユーザースペシフィックな判断を教え込むというものになります。その場合には、個人ベースで違うネットワークを1つ1つ作っていかないといけません。また、インプットされるデータの種類パッケージが個人によって違うため、それらを汎用的に受け止められるネットワークを開発する必要があります。さらに、画像であれば、検索エンジンで「猫」と検索すれば猫の画像が大量に検索結果として出てきますが、トレード領域になると、サンプルデータが実際は多くないということがあります。

Longine:そうすると、画像認識ではなくて、どちらかというとディープラーニングのノウハウを、いかにちょっとカスタマイズしながら、トレーディングシステムに当てはめるかというのがポイントなのでしょうか。

横川:はい。カスタムの連続です。誰もやったことがないのでこれといった内容の論文は出てこないですね。画像認識の論文は結構数があるのですが、トレーディングに必要なデータは限られていることもあり、ある種ストリートファイト的に「何ができるのだろうか」と自問自答しながら、試行錯誤しながらやっています。

Capitalicoの事業モデルとは

Longine:今後、Caplitalicoをどのような事業モデルにしていくのでしょうか。

横川:1つは、ツールとして売っていくので、それをフリーミアムで始めて、どこかしらで課金するポイントを作り、プレミアムでお金を取るというSaaS(Software as a Service)モデルを考えています。あとは、作られたものを買っていく人たちからの、販売されたその中間マージンを取るというものと、大きく2つ考えているところです。

Longine:競合やベンチマーキングしている企業があれば教えてください。

横川:自分のトレードアイデアを自動化するという意味では、ライバルはボストンのQuantopian(クワントピアン)があります。また、ロシアのメタトレーダーというMeta Software(メタソフトウェア)を扱っている会社があります。為替のシステムツールで大きなシェアを取っている巨人です。その他にもちょこちょこありますが、プログラミングなしといっても、ドラッグ&ドロップでプログラミング的なことをやらせるツールなどが多いです。

FIBC2016に登壇し受賞してよかったこと

Longine:FIBCに出て良かったことは何ですか?

横川:優勝させていただいて本当にうれしいです。まず、メディアにもたくさん取り上げていただいたので、露出が増えたというのもあります。また、大賞ということで、投資家の皆様に一目置いていただけるというのは、励みになっています。それが一番大きかったなと思いますね。

加えて、海外のShift Payments(シフトペイメンツ)のMeg Nakamuraと意見交換できたり、海外の面白い人との出会いはすごく良かったと思いました。

Longine:本日は長時間ありがとうございました。

横川:ありがとうございました。