Interview

マネーツリーは技術で個人の金融力をエンパワーしていく

マネーツリー株式会社 ポール・チャップマン × Longine Fintech取材班

今回はマネーツリー株式会社 ポール・チャップマン 代表取締役に同社の事業内容と成長戦略について伺いました。

読者に伝えたい3つのポイント

マネーツリー株式会社(以下、マネーツリー)は、Moneytreeという個人向けの家計簿アプリとMT LINKというデータアグリゲーションサービスを2本柱とするフィンテック企業です。

Moneytreeで一般消費者向けに認知度を高めたことやデータアグリゲーション技術が評価されたことにより、クラウド会計企業やメガバンクとも協業を拡大中です。

社会的に意味あること、パワーを持っていない個人に役立つことをミッションに、今後は日本発のフィンテックスタートアップとして海外展開も目指す考えです。

マネーツリーは「一生通帳、家計簿より楽チン!」なファイナンスアプリでスタート

Longine FinTech取材班(以下、Longine):マネーツリーは、資産管理アプリMoneytreeとデータアグリゲーションサービスMT LINKを2本柱とされていますが、創業からの経緯を教えてください。

マネーツリー株式会社 ポール・チャップマン 代表取締役(以下、チャップマン):2012年4月に渋谷のシェアオフィスで起業しました。その後1年間はアプリの基盤作りのためのステルス開発に集中し、2013年4月25日に資産一括管理アプリMoneytreeをApp Store にて公開しました。Moneytreeは銀行カード、クレジットカード、電子マネー、ポイントカードなどの収支を、ログインすれば一括で確認できるサービスです。

Longine:複数の口座を一括してスマホ画面だけで管理できるので便利ですね。その仕組みをもう少し詳しく解説してください。

チャップマン:Moneytree は、我々が開発したデータアグリゲーション技術を使い、ユーザーが登録した口座から自動的に利用明細を取りに行き、いつも最新の資産状態を一つの画面で見せてくれます。一度登録してしまえば、わざわざ口座情報を入力する手間さえ必要ありません。明細と残高が自動的に出てきて、AI(人工知能)を使って勘定科目の仕訳も自動的にやってくれます。

Longine:「Moneytree」のインストール数は100万件(2016年1月時点)と伺っていますが、短期間に急速に普及が進んだ背景を教えてください。

チャップマン:2013年4月に公開してから、簡単に家計簿をつけることができることが口コミで話題になりました。リワード広告、4マス広告は自社では全くやっていません。また、バックアップしてくれる親会社もないので、親会社のチャネルに乗せて配信してもらうということもありませんでした。

それでも大幅にダウンロードが増えたことがアップル社に評価され、iTunes App Store 全カテゴリの中から App Store Best of 2013、2014を 2 年連続で受賞しました。

Longine:ファイナンス関連のアプリでこのような賞を取ることは珍しいですね。ところで、なぜ、起業した時に家計簿アプリに狙いを定めたのですか。

チャップマン:銀行の1人のユーザーとして、大きな改善余地があると感じていたためです。起業した2012年当時には、銀行のスマホアプリはゼロでした。Webベースのインターネットバンキングはありましたが、取引記録を遡れる期間は短く、使い勝手もよくありませんでした。そこで、チャットのように、いつでも簡単に見ることができ、即座に情報が入ってくるようなアプリがあれば、きっと受け入れられるし、喜ばれると考えました。

Longine:米国のPFM(個人財務管理ソフト)のミント(mint.com)なども意識されていたのですか。

チャップマン:もちろんミントも視野に入っていました。でも当時のミントはWeb2.0(パソコン)でしたので、スマホ対応はまだでした。一方、我々はマネーツリーを創業する以前からiPhoneアプリの開発の経験がありましたので、iPhoneにフォーカスすれば、ミントより優れたファイナンスアプリを作れる自信がありました。

Longine:それはなぜですか。

チャップマン:モバイルはパソコンとはユーザー体験が大きく異なるからです。例えばグーグルマップは、パソコンとスマホでは体験は大きく変わりましたね。それと同じように考えていただければと思います。つまり、手元で常に最新情報が見ることができると、「うん、これは便利だね」となります。パソコンを座って見るのとは全く違ったユーザー体験です。コンビニに入る直前に歩きながら電子マネーの残高を確認することなどはパソコンでは実現できなかったユーザー体験です。

Longine:既に国内2,400以上、99%の金融機関に対応済みとのことですが、銀行から承諾を得るのは大変ではなかったですか。

チャップマン:我々は利用者にパスワードを使うことの許諾を頂いて、ユーザー代わってデータを取りにいっていることになります。このため、銀行の承諾は不要です。これが、データアグリゲーションの基本的な仕組みです。この点、銀行としては利用者が増えるため、最初から歓迎されました。

Longine:Moneytreeはフリーソフトですか。

チャップマン:できるだけ多くの人に使っていただきたいので、基本機能は無料です。Moneytreeの普及によって、個人にもパワーが与えられて、より平等な世界になると思っているからです。データ量の上限はなく、無期限で使えます。このため、長く使っていくと過去の出費比較などが容易にできるようになります。

Longine:個人ユーザーのプロファイルを教えてください。

チャップマン:一番多いのがM1層(男性20~34歳)とF1層(女性20~34歳)です。男女比率はほぼ半々です。

Longine:これは目論見通りたったのですか。

チャップマン:最初は、ガジェット好きのアーリーアダプターが中心で、年齢も、もう少し上でした。当初は、機能が多く複雑な家計簿アプリの存在が大きかったため、Moneytreeは家計簿アプリじゃないとか、予想外のことを言われました。そこで、2年目から「一生通帳、家計簿より楽チン!」というキャッチフレーズを製品説明に入れるようにしたところ、正しく認知してもらえるようになりました。

写真左から、マネーツリー株式会社 事業部長のロス・シャロット氏、代表取締役のポール・チャップマン氏、営業部長のマーク・マクダッド氏

写真左から、マネーツリー株式会社 事業部長のロス・シャロット氏、代表取締役のポール・チャップマン氏、営業部長のマーク・マクダッド氏

MT LINKでクラウド会計市場を開拓

Longine:最近ではクラウド会計企業や銀行との協業も進んでいますが、何がトリガーになったのでしょうか。

チャップマン:銀行との協業の考えは最初の段階では全くありませんでしたが、iPhoneアプリで認知度が上がっていくにつれて、会計企業や銀行からのアプローチが増えてきました。

昨年は、弥生株式会社(以下、弥生)、株式会社TKC(以下、TKC)とクラウド会計分野で提携しました。また、IBMからはIBM Bluemix(ブルーミックス)という非常に大きなエンタープライズ向けのプラットフォームのAPIとしてMT LINKを採用していただいたため、日本の金融機関からの注目度も高まりました。

MT LINKは、クラウドを使った非常にセキュリティが高いデータアグリゲーションサービスの基盤(プラットフォーム)です。起業してから、ステルス開発期間中も含めて最も力を入れて作り込みました。

当初は、B to Cを事業の中心にしようと考えていましたが、金融機関と個人をもっとうまくつなげるためには、B to Bも必要であり、TKC、弥生と組めば、それをもっと早く実現できると考え連携に踏み切りました。現在、会計業界では、データアグリゲーションはホットな注目度の高いテーマです。データアグリゲーションにより顧客にとても良い体験を与えることができるからです。

また、マネーツリーと会計業界との相性も非常によいです。なぜなら、マネーツリーは個人資産管理をターゲットとしていて、会計などの専門領域はやっていないからです。そのため、会計業界から見ても組みやすい相手となります。現在ではクラウド会計関連での提携先は6社ですが、MT LINKとの連動は簡単かつ短期間に導入できるので、パートナーはどんどん広がっています。

Longine:MT LINKは会計ソフトのどの部分で使われるのですか。

チャップマン:お金の出入りの部分です。最新の入出金データを取り込み、それを法人ユーザーに届けます。普段はMoneytreeで記録しておいて、確定申告の時にデータをダウンロードし、AIで自動的に仕訳を行い、勘定項目の仕訳後に確認してプリントアウトする、という流れがだんだん普及しつつあります。従来は、インターネットバンキングのサイトに行ってCSV形式でデータをダウンロードしていた時間や、勘定項目の仕訳の手間が大幅に省けます。

昨今、クラウド会計という言葉がはやっていますが、そこの一番の要になっているのがデータアグリゲーション技術と人工知能を使った仕訳です。MT LINKは、それを全て提供できます。

Longine:クラウド会計企業は自分たちでは開発できないのでしょうか。

チャップマン:データアグリゲーションは、異なるフォーマットの金融機関のデータをそれぞれ集めてきて、それを1つのフォーマットにまとめるという複雑な作業が必要であるため、とても大変です。

また、クラウドのデータトラフィックの管理やハッカー対策などに対するコストを最適化するノウハウも必要です。このため、これをゼロから作りあげることは容易ではありません。実際、APIとしてデータアグリゲーションサービスを提供しているのは、日本ではマネーツリーだけです。

銀行との連携も進む

Longine:銀行との連携も進んでいますね。

チャップマン:2015年10月には3メガバンク系のベンチャーキャピタル3社(みずほキャピタル株式会社、三菱UFJキャピタル株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社)から出資を受けています。また、2016年2月にはみずほ銀行と連携することを発表しました。

みずほ銀行はみずほダイレクトアプリを提供していて、その中で弊社の「MT LINK」をシステム側として採用していただいています。メガバンクが弊社のようなスタートアップの技術を採用するのは、以前は考えられなかったため、フィンテック業界では大変インパクトのあるニュースとなりました。

Longine:MT LINKを採用すると、みずほダイレクトはどのように変わるのですか。

チャップマン:みずほ銀行のシステムでは3か月しか保存できなかった支払入金明細などが、MT LINK導入後は永久に保存されていきますので、「一生通帳」というサービスが提供できます。銀行の勘定系システムでは、3か月以上のデータを預金者に提供することは非常に負担が大きいのですが、MT LINKを使えば、それが簡単にできてしまいます。

Longine:銀行のシステム改良では対応できないのですか。

チャップマン:銀行システムは、普通口座以外に定期口座や積立口座などに分かれていて、それぞれに勘定系システムがありますので、それらを集約したシステム作り直すとなると巨額な投資が必要になります。MT LINKを使えば、集めてきたデータを集約して1つにして見せているので、非常にシームレスに、かつ、安価に導入ができます。

金融イノベーションを日本から世界へ

Longine:今後の事業展開を教えてください。

チャップマン:現在のマネーツリーは、MT LINKというITシステムのバックボーン、つまり目に見えない配管でありインフラを担っています。一方で、Moneytreeという個人向けのブランドビジネスもやっています。つまり、基盤からブランド、エンドユーザーまでのフルスタックなスタートアップです。これを変えずに、今後もスマホ技術とデータアグリゲーション技術を使って、キラーアプリを作っていきたいと思います。技術至上主義にはならず、社会的に意味あること、パワーを持っていない個人に役立つことをやりたいと考えています。

Longine:MT LINKの利用領域はさらに広がりますか。

チャップマン:海外ではオンラインレンディングとかロボアドバイザーには、データアグリゲーションが不可欠な要素になっています。過去の利用明細データの蓄積があるので、それに基づいた金融商品の提供ができるからです。

こういうことはまだ国内では実現されていませんが、データの所有者、口座の持ち主の合意に基づいてデータを共有できるようになれば、日本でも様々なフィンテックビジネスができるようになると考えています。

Longine:日本でもできますか。

チャップマン:日本でのボトルネックは、基盤(プラットフォーム)が未整備であることだと思います。加えて、法規制もあるかもしれませんが。しかし、最近は政府もITとの連携による金融業界の進化を期待していると思います。

ロボアドバイザーでも、その一番の基礎になるところはお金の動きなので、そのデータの蓄積がない限りは、いくら技術が進んでも新サービスは普及しないと思います。これは金融業界以外でも同じです。

Longine:5年後、10年後にMoneytreeやMT LINKが大幅に普及していると、どのようなことが起りますか。

チャップマン:多くの日本人の金融リテラシーが上がると思います。たとえば、金融商品の購入決定の判断を、多くの人が今よりも安心して楽にできるようになると思います。

自分の資産状況を把握していれば、自分にはフィットしていない金融商品をファイナンシャルプランナーから薦められても断れるようになるでしょう。また、今は紙の書類に書いて提出していた住宅などのローン申請書もなくなり、MT LINKのデータと連携するだけになるかもしれません。

日本では「お金」は怖い、汚いという意識が強いですが、きちんと収支把握ができていれば怖くもなくなりますし、お金と楽しく付き合えるようになると思います。

Longine:海外展開は考えていますか。

チャップマン:今、日本でやっていることは、スタートアップとして価値があると思いますし、金融リテラシーの向上にも寄与するので社会貢献にもなると考えています。このため、いずれは日本発のフィンテックスタートアップとして、海外展開もしたいと思います。日本からアジアへ、アジアから世界へといった感じですね。

2015年の秋には、マスターカードの「MasterCard Start Path」の対象会社に選出されました。MasterCard Start Pathというのは、マスターカードがフィンテック系のスタートアップ企業をサポートするための取り組みで、全世界で200社ほどの中から選出された4社の中に日本企業として唯一入ったのです。

また、最近では、欧州のパイオニアーズと日本経済新聞社が共催する「パイオニアーズ・アジア2016」で、最終選考に残った世界中のスタートアップ24社のうちの1社に選ばれました。こうした経験も海外展開に役立てていければと考えています。

マネーツリー(金の木)という社名や、コーポレートロゴの「象」が表しているように、長期にわたって成長する企業を目指したいと思います。

Longine:最後に、これまで何度かFIBCに参加されて変わったことはありますか。

チャップマン:多くの業界関係者の方と知り合うことができ、とても有意義でした。

Longine:今日はどうもありがとうございました。

チャップマン: こちらこそ、どうもありがとうございました。