Interview

トランスファーワイズは国際送金の迅速化と低コスト化を新発想で目指す

トランスファーワイズ・ジャパン株式会社 越智一真 × Longine Fintech取材班

今回はトランスファーワイズ・ジャパン株式会社 越智一真 代表取締役に、同社の事業の戦略を中心に、フィンテックに対する想いを伺いました。

読者に伝えたい3つのポイント

トランスファーワイズは、国際送金をしようとする人のマッチングシステムにより、格安の手数料で国際送金を完結させるサービスを展開する、英国で2010年に創業されたフィンテック企業です。

現在は世界で33通貨に対応し、月5億ポンド相当の国際送金がトランスファーワイズ経由で行われています。日本ではまだ利用は限定的ですが、日本語化やスマートフォン対応によりユーザーが増えていく見込みです。

誰もが、手段を選ばず、どんな通貨であっても、安く早く国際送金をするプラットフォームにするというのが、グループ全体の将来ビジョンです。日本を担当するトランスファーワイズ・ジャパン株式会社の越智一真代表取締役は、どのような局面でも、「お客様ありき」の姿勢でのサービス開発がフィンテックの盛り上がりにつながると語ります。

身近な不満をもとに、2人のエストニア人が英国で創業

Longine FinTech取材班(以下、Longine):まず、トランスファーワイズの創業経緯について教えてください。

トランスファーワイズ・ジャパン株式会社 越智一真 代表取締役(以下、越智):当社はクリスト・カーマンとターベット・ヒンリクスという2人のエストニア人によって英国で始まりました(注:冒頭写真左がクリスト・カーマン氏、右がターベット・ヒンリクス氏)。クリストはロンドンの金融機関やコンサルティング会社に勤め、ポンドで給料をもらっていました。同時に、エストニアに家があり、そのローンをユーロで返済しなくてはなりませんでした。そのため、定期的にポンドをユーロに替える必要があり、外国送金の手数料の高さに辟易していました。逆に、ターベットの方には、定期的にユーロをポンドに替えて送金する需要がありました。

国際送金にかかる手数料は高い上に、不透明です。送金時に取られ、着金時にも取られ、場合によっては中継銀行でもとられます。たまに手数料無料をうたっているサービスもありますが、為替レートのスプレッドが大きくて、本当にお得なのかどうか、一般ユーザーには判断がつきません。

こうした不便さから、国内送金だけで完結してしまえば手数料が抑えられるのではないかと考え、ポンド→ユーロとユーロ→ポンドという2つの国際送金の流れをネッティングする仕組みを作りました。ターベットはSkypeの最初の従業員だったこともあり、P2Pのサービスやそれを可能にする技術への造詣が深かったことが大いに役立ちました。

そして、仕組みを作り上げ、周囲にヒアリングしてみたところ、当初予想した以上のニーズがあるということで2010年に会社を設立し、翌2011年にサービスを開始しました。

Longine:具体的にはどのようなサービスなのでしょうか。

越智:たとえば英国のポンドをユーロ圏に送金しようとする場合、弊社はポンドを顧客から受け取り、ユーロ圏の顧客でユーロを英国に送金しようとしている人を探し、マッチングします。その結果、実際に国際送金をすることなく、双方の送金受取人が必要な場所で資金を受け取ることができます。このとき弊社は、従来の国際送金と比べてはるかに安い手数料をいただきます。

私たちは常に「お客様ありき」のサービスであるように心がけています。具体的には4つの視点があります。1つ目は低コストです。現在、TWのサービスは、為替のスプレッドなし、0.5%の手数料のみをいただいています。

2つ目はスピードです。実験ベースですが、英国からフランスの送金にかかる時間が17秒というところまで実現できるようになりました。

3つ目は利便性です。きちんと本人確認をしてセキュリティの確保が必要ですが、そうしたコンプライアンスを遵守しつつ、利用者のストレスをなくすよう、アプリのインターフェースなど工夫をしています。

4つ目はカバレッジで、送金先の国の数、送金方法の種類を増やすという2つの側面があります。日本では、当社への送金は銀行振込だけですが、米国ではクレジットカード引落しもできるようになっています。

Longine:このサービスは現在、どのように使われているのでしょうか。

越智:世界では、月5億ポンド相当が私たちのシステムを使って送金されています。従来の方法で国際送金する場合と比べて2,200万ポンド相当の節約できていると言われています。英国で設立された経緯から、ヨーロッパを中心に使われていますが、世界に広がりを見せており、通貨では33通貨に対応し、送金できる国は55か国、受け取りできる国は39か国にまで増えてきました。送金国と受取国の数に差があるのは、国によって送金はできるけど、受け取りはできない(または認可を得る難易度が高い)といった、法規制の違いがあるためです。

Longine:ユーザーをどのように増やしていったのでしょうか。

越智:特に大規模な予算を使用したマーケティング活動をしたわけではなく、商品のクオリティを上げることにより、自然と口コミで広がっていきました。そこでの課題は、「便利そうだけど、使っても大丈夫なのか」という、信頼性をどうしたら得られるかということになります。

信頼性を得るために、私たちは努力を惜しまず、1つ1つ課題をこなしています。本社がある英国では、FCA(英国金融行為規制機構、日本の金融庁に相当)に免許登録済みで、日本では関東財務局に資金移動業者として免許を取得しております。資金移動業者は、送金途中にあり滞留しているお客様の資金の100%以上の額を資産保全しなければなりませんので、万一弊社が破たんしても安心です。また、グローバルレベルのAnti Money Laundering(AML)基準を満たしていることはもちろん、日本特有の反社チェックなども日々モニタリングし、万一何かある場合には、すぐに監督官庁に報告可能な社内体制を整えております。

こうしたことを各国で行っています。口コミで広まるためには、信頼性がないと始まらないと考えているからです。

トランスファーワイズ・ジャパン株式会社 越智一真 代表取締役
トランスファーワイズ・ジャパン株式会社 越智一真 代表取締役

日本での展開の状況

Longine:日本はどのような状況なのでしょうか。

越智:日本では、為替取引を業として営むために必要な資金移動業の免許を2015年8月に取得しました。仕向送金のテストを繰り返し、日本特有の本人確認+住所確認+マイナンバーなどの仕様を取り入れ、2016年3月には1回100万円までの仕向送金(日本から海外への送金)のサービスができるようになりました。現在は英語ウェブサービスのみで、βサービスの位置づけですが、また、2016年5~6月には、2016年9月までには、スマホアプリや、日本語対応、被仕向送金(海外から日本への送金の受け取り)及び法人口座開設などのサービスができるよう準備を進めております。

まだ英語のインターフェースしか用意できていないためだと思いますが、日本でのユーザーの多くは、日本に滞在する海外の方がほとんどです。そのため、思わぬところでご意見を頂戴することがあります。たとえば、海外の方はマイナンバーを持っていないので、日本国内の金融機関での口座開設などには非常に手間がかかります。また、弊社のサービスを使うためには、国内銀行に開設した弊社口座にお金を振り込んでいただく必要がありますが、その国内の銀行振込の方法が分からない、という話も聞き、弊社スタッフがオンラインバンキングの利用方法などをご案内したりすることもあります。こうしたご意見に1つ1つ耳を傾けながら改善していきます。

日本での課題は、まだ日本語のインターフェースがないということです(現在準備中)。英語圏のサービス利用の割合が高いヨーロッパで始まったサービスということもあって、日本語圏のお客様がスマホ経由で利用する場合でのインターフェースとしては使い勝手が良くない部分もあります。今後は、エンジニアと協力をし、日本在住ユーザーの利便性を徹底的に考慮したスマホユーザーインターフェースに今後対応できるかが、弊社の当面の課題と感じております。

Longine:既存のサービスと競合するのではないでしょうか。

越智:銀行や、他の資金移動業者など、国際送金自体は既にいろいろなところが行っています。たとえば、すでにネット系金融機関でも安価な国際送金サービスはありますが、対応できる通貨、サービス言語、プラットフォームが限られていたり、アプリに対応していてもストレスを感じる“イケていない”作りになってたりと、決定的なサービスが無いのが現状です。また、多くの方が銀行の窓口で国際送金を実施されていますが、窓口に出向けなかったり、色々なニーズの方がいますので、弊社をご利用いただくお客様のニーズは少し別のところにあるようにも感じます。

国内にある銀行の窓口で送金をされた経験のある方であれば、同じ経験をされた方も多いと思うのですが、大半は2階に窓口があり、海外送金指示書を手書きで記入しないとなりません。その後、行員さんが海外の銀行宛に連絡を取ると、その手順だけで40分くらいかかります。第一印象では、銀行の手数料が高いというイメージがありますが、人件費を考慮すると銀行側にとっても不採算ビジネスのため、銀行のご担当によっては私たちに対して「よく来てくれた」とおっしゃっていただける場合もあります。

そのため、競合を考えるよりも、日本の他の金融機関様や、システム会社と協力をして、まだリーチできていないところにどうやってリーチしていくか、という考え方で進めていこうと考えています。

Longine:越智社長がトランスファーワイズに出会ったきっかけはどういったものだったのでしょうか。

越智:前職でたまたま海外送金について調査をしていた際に、TrasnferWiseという名前を初めて知り興味を持ちましたが、そのときは、単純にネッティングを一般向けにサービス展開している会社なのかなと思っていました。その後、たまたま友人の紹介がもとで、創業者と話すきっかけがあり、シンプルなインターフェースの裏での努力や、ユーザー徹底重視のコーポレートカルチャーに感銘を受け、入社を決断いたしました。

私自身はもともとイギリスに留学をしていたのですが、海外送金の複雑さや高い手数料、また、届くのに待たないといけないフラストレーションは常に感じていました。大きな声では言えないのですが、親御さんが子供に郵便で封筒で送金をしたりするケースも多く見てきました。

また、安価な価格が理由で、発展途上国出身の学生が地下銀行など非公式なサービスを利用することも知っていましたし、そのマーケットの大きさも感じております。長期的なビジョンでは、安全でより安く質の高いサービスを提供できれば、このような危ない橋を渡る方も減り、より良い世界がくるのではないかと考えています。

グループの将来像

Longine:グループ全体ではどのような将来像を描いていらっしゃいますか。

越智:トランスファーワイズを、誰もが、手段を選ばず、どんな通貨であっても、安く早く国際送金できるためのプラットフォームにするというのがグループ全体の将来ビジョンです。そのために、次の5年の間に、各国の監督官庁のご協力を仰ぎ、1つずつやるべきことをこなしていきたいと考えています。

Longine:将来像に向けて、グループ全体ではどのような動きになっているのでしょうか。

越智:昨年の5月はグループ全体で社員が約150名でしたが、現在では600名以上の体制となっています。この体制をもとに、グループ全体で拡大を目指します。今後は、アジア、南米にサービスを広げていきます。その際、先ほど申し上げた「お客様ありき」の4つの視点を常に持つようにサービス開発していきます。

また、日本については、海外から日本への送金ニーズはとても強く、ロンドン本社からの期待はとても大きいです。その期待に応えるべく、日本のお客様と向き合って、よりよいサービスを作り上げていきます。どのような難しい局面であっても、「お客様ありき」の姿勢でのサービス開発が、フィンテックの盛り上がりにつながると考えています。

Longine:本日はどうもありがとうございました。

越智:こちらこそ、どうもありがとうございました。