Interview

Tranzaxは電子記録債権の活用で中小企業金融のイノベーションを目指す

Tranzax株式会社 代表取締役社長 小倉隆志 × Longine Fintech取材班

今回は、Tranzax株式会社の小倉隆志代表取締役社長に、電子記録債権を使った新たなフィンテックサービスへの取り組みについて伺いました。

読者に伝えたい3つのポイント

Tranzax株式会社は、電子記録債権を活用した新たなファイナンススキームを開発し、中小企業金融でのイノベーションを起こすために2009年に設立されました。

創業以降、地方自治体・地域金融機関とともに、中小企業に役立つ金融スキーム開発の勉強会を重ねてきた実績等が評価され、2016年7月に金融庁から電子債権記録機関の指定を受けています。

2016年8月からは、中小企業が大企業から受け取った売掛債権を電子記録債権化したうえで、一括して同社出資のSPCが低金利で買い取るファクタリングサービス「サプライチェーンファイナンス」を開始しています。また、来年からは、電子記録債権を活用し、受注時から工事着手金等の調達が可能となる「Purchase Order (PO)ファイナンス」を立ち上げる計画です。

電子記録債権に取り組んだ理由

Longine FinTech取材班(以下、Longine):御社は今年7月に金融庁から電子債権記録業の指定を取得し、中小企業が持つ売掛金を電子記録債権にして早期に現金化するサービスを8月から開始したと伺っています。最初に、創業までの経緯を教えていただけますか。

Tranzax株式会社 小倉隆志 代表取締役社長(以下、小倉):私は大学卒業後、長い間、野村證券で機関投資家や大企業向けの金融スキームに携わっていましたが、その後、CSK(現SCSK)のシンクタンクであるCSKーISで執行役員として電子記録債権に関する研究開発に取り組みました。

そこで実感したのは、大企業向けの金融技術が非常に高度化したのとは対照的に、国内の大半を占める中小企業向け金融は不動産担保や保証が中心のまま旧態依然としているという点であり、そうした現状に対して大きな問題意識を持つようになりました。

Longine: 具体的にどこに問題があるとお感じになったのですか。

小倉:まず、中小企業向けの貸し出しが全く伸びていないことです。中小企業向けの貸し出しのピークは1995年の266兆円ですが、そこから約20年間右肩下がりが続いており、2016年には185兆円と、ピークから約30%減少しています。よく「失われた20年」などと言われますが、これだけ明確にそれを表すデータはありません。お金というのは、企業にとって血液です。中小企業向けの貸し出しが減少したままというのは、人間で言えば低血圧状態ですので、これでは元気が出るわけがありません。

Longine:トリクルダウンなどと言いますけれども、現実にはそうなっていませんね。

小倉:その通りです。そこを電子記録債権という新しい制度を上手く使って、日本経済を活性化しようと考えるに至ったのです。ただし、金融ですので、“バクチ”ではなく合理的に進めなくてはいけません。返済されない融資は行ってはいけないという大前提のもとで、新しい仕組みを作ることに尽力してきました。

Longine:「電子記録債権法」が成立したのは起業される2年前の2007年でしたね。

小倉:電子記録債権法が施行された時に、直観的にCSKの新規事業にフィットすると思ったのです。そこで、何かお役に立てることはないかと考え、金融庁の総務企画局にお話を伺いに行きました。

そこで分かったのは、法律は施行されたものの電子債権記録機関を作ろうとしている企業が当時はまだ1社もないということでした。また、“手伝うのではなく、主体的に取り組んでほしい”と言われました。そのため、CSKーISで事業化に向けた研究開発を始めたのですが、親会社のCSKの経営が悪化してしまったので、2009年に弊社の前身である株式会社日本電子記録債権研究所を設立し、プロジェクトごとスピンアウトし起業したという次第です。

電子債権記録機関として認定される

Longine:2009年から現在までは、どのような活動をされてきたのですか。

小倉:金融庁からは、地方自治体や地域金融機関を巻き込んで勉強会をやっていってくれれば、国として応援できると話されました。そこで、日本各地で電子記録債権に関する様々な勉強会を行い、ようやく2016年7月に電子債権記録機関に指定されました。ということで、創業以来これまでの7年間はほとんど売上はありません。

Longine:では、電子債権記録機関についてもう少し詳しく教えてください。

小倉:株式や社債は、発行することを会社が決議すれば発行可能です。ところが、電子記録債権は会社が自由に発行することはできず、国が指定した電子債権記録機関で所定の手続きを取る必要があります。国の指定機関であり、国の業務を委任された、非常に責任が重い存在なのです。

Longine:国の金融インフラの一翼を担うということですね。

小倉:銀行、保険会社、証券会社などの金融機関は、やりたい企業が監督官庁に審査してもらい、認められれば設立することはできます。一方、特別な法的効果が付与される電子記録を行う電子債権記録機関は、他の金融機関の登録や免許と異なる指定制で、許可のハードルは大変高くなっており、まず、国がその業務を進める意思があるかどうかも重要になってきます。幸い、長年の努力をご当局に認めていただくことができました。

ちなみに、これまで、電子債権記録機関は三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、そして全国銀行協会だけでしたが、これに今回、我々が加わったのです。オリックスや野村證券等の大企業を飛び越して、いきなりベンチャーの我々を認可していただいたのですから、その意味でも大変責任が重いと考えています。

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Tranzax株式会社 小倉隆志 代表取締役社長

メガバンクの取り組みとの違い

Longine:電子債権の活用方法に関して、3メガバンクとの違いはあるのですか。

小倉:大きく異なります。3メガバンクの行っている電子債権を活用した一括ファクタリングは、手形を廃止し印紙税や事務コストを削減することが主目的です。このため、電子債権を導入したからといって、中小企業の資金繰りがよくなるとか、適用金利が低くなることにはなりません。

一方、電子記録債権法という制度自体は、中小企業金融スキームを革新させるだけの確かな法的機能と柔軟性を兼ね備えた素晴らしい制度であり、色々な可能性を持っています。国が、弊社のようなベンチャーにも認可を与えたのは、その可能性をもっと活かして欲しいという期待があるからだと思います。

Longine:では、御社が始められた電子債権を活用したサービスについて詳しく教えてください。

小倉:我々は、手形代替機能ではなく、担保活用のツールとして電子債権制度に注目してきました。そこで考え出されたのが、「サプライチェーンファイナンス」という電子債権を活用したサービスです。信用力が高い大手企業から受け取った売掛金を電子債権として早期に現金化するサービスです。このシステムは特許も取得済です。

Longine:大手企業の信用力を活用する仕組みということですね。

小倉:東京銀行間取引金利(TIBOR)に近い0.3%前後という非常に低い利率で借入が可能な大手企業は低金利政策の恩恵を受けていますが、中小企業向け融資の基準となる短期プライムレートは2009年1月から1.475%の水準で高止まりが続いており、大企業の金利コストとの差は開く一方です。

それに対して、我々の「サプライチェーンファイナンス」の仕組みでは、中小企業も発注企業である大企業の信用力をベースに低金利政策の恩恵を受けられることになります。

Longine:仮に、ある中小企業(サプライヤー)が発注先の大企業(プライマリーメーカー)から売掛金100万円を受け取ったとします。この場合ではどうなりますか。

小倉:弊社は、プライマリーメーカーごとに専門の特別目的会社(SPC)を設立します。そこに対して弊社の100%子会社のDensaiサービスは、下請けの複数のサプライヤーが保有する売掛金をまとめて短期プライムレートより低いレートの割引率で買い取ります。仮に1%だとしたら99万円で売掛債権を買い取ることになります。

一方、プライマリーメーカーは、資金に余裕があれば、期日前にその債権をSPCから99.5万円で買い取ることができます。これにより、プライマリーメーカーは0.5万円の利鞘を得ることになります。この場合、SPCも99万円で買い取った債権を99.5万円で売れるので0.5万円の利鞘を得ることができます。この利鞘はシステムを使う使用料としていただくもので、弊社グループの利益となります。

Longine:サプライヤーやプライマリーメーカーがシステムを導入するための費用負担はどの程度ですか。

小倉:サービスはASPで提供しますので、インターネットに接続できるシステム環境であれば、ほとんどコストは発生しません。

Longine:下請けであるサプライヤーは、金利コストの削減に加えて、債権の持ち込みから2日間という短期間で現金化が可能になり資金繰りが大きく改善するというメリットを享受できますが、プライマリーメーカーのメリットはどこにあるのでしょうか。

小倉:このシステムを導入すれば、プライマリーメーカーは、これまで銀行や支払代行業者に払っていた支払手数料を払う必要がなくなります。また、優秀なサプライヤーを囲い込むことができます。

さらに、先ほど述べたように、余裕資金があれば安く債権を買い戻すことが可能となります。そうすることで買掛金も減るので、自己資本比率も上がりますから、株主からも余剰資金を持ち過ぎだと批判されることもなくなります。

Longine:まさに、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三方良し、の状態ですね。

サプライチェーンファイナンスの次はPurchase Order(PO)ファイナンス

Longine:中小企業の成長をサポートするために、サプライチェーンファイナンス以外の事業プランはあるのでしょうか。

小倉:中小企業が成長するために何よりも必要とされているのは、立派な事業計画書ではなく、まずは大きな仕事を受注することだと考えています。とはいえ、資金繰りがタイトな中小企業は、前金払いがないと大型案件の受注はできないことになります。そうした状況が、これまで中小企業が停滞してきた主因だと考えています。その解決策として計画しているのが「Purchase Order(PO)ファイナンス」というサービスです。

Longine:では、Purchase Order(PO)ファイナンスについて具体的に教えてください。

小倉:発注書を電子債権化して、それを担保にサプライヤーが融資を受けられるようにするスキームです。発注者側からすると、納入前に電子記録債権を発行することは通常は考えられないわけです。そこで、検収後に支払うという条件付きの電子記録債権を活用するプラットフォームの特許を申請中です。現在は、中小企業庁、信用保証協会と一緒に実務スキームを詰めているところです。現時点では、建設業界向けに来年からサービスを開始できればと考えています。

Longine:今後、御社と同じような金融サービスを手掛ける会社との競争激化のリスクはありますか。

小倉:金融庁から電子債権記録機関の指定を得ていることや、サプライチェーンファイナンスについては特許を持っていることが大きな強みです。また、プライムメーカーは多数のサプライヤーと契約書を交わさなくてはいけないため、一度動きだしてしまってから他社のプラットフォームへ移行する乗り換えコストは非常に大きくなります。そのため、参入障壁が非常に高い事業であると考えています。

Longine:本日はどうもありがとうございました。

小倉:こちらこそ、どうもありがとうございました。